皆さん、こんにちは!
確定申告が近づいてくるこの時期、フリーランスのシステムエンジニアとして順調に仕事が入り、高い収入を得られるようになったはいいが、毎年の確定申告後に払う所得税や、その後6月以降にかかってくる住民税・事業税や国民健康保険料(市町村によっては国民健康保険税)の事を考えると、喜んでもいられないなと思われる方が多いのではないでしょうか。
これらの税・保険料は、どれだけ経費を計上できるかが金額を左右するカギになるのですが、フリーランスエンジニアの場合には、設備や仕入れにお金がかかる店舗経営や物品販売ほど経費計上できず、同じ収入でも異業種より税金が高くなりがちです。
しかし実は皆さんが知らないようなものでも、経費にできるものがあったり、国が認めている節税対策を知ることにより、安心で確実な節税が可能なのです。
・フリーランスエンジニアの税金はどうなっているの?
・必要経費のことを詳しく知りたい!
・国が認めている節税対策って?
今回はそんなフリーランスのエンジニアの方向けに、どのようなものが経費算入できるのか?お得な情報を纏めてみました。
こんなものも必要経費にできる
経費にならないのではないかと思える支出でも、実は経費にできるものがあります。
なお経費計上することにより得られる節税効果は、次のように考えてください。
所得税の最高税率は45%、住民税の標準税率は10%、事業税の税率は(フリーランスエンジニアがかかわる業種は)5%、国民健康保険の料率(税率)は自治体により異なりますが概ね12%前後です。
このため、例えば10万円経費を増やすことによる節税効果は、10万円×(45%+10%+5%+12%)=7.2万円です。
ただしこれは最も多く想定される節税効果であり、所得税率は最低5%と最高税率と幅があります。
住民税は一部の自治体で若干増減し、事業税は請負契約によって得られる事業所得が290万円以下なら免税、国民健康保険の料率は40歳になると2%ほど増加する点に注意してください。
所得税・住民税以外の税金
所得税や住民税といったフリーランスエンジニアが毎年払う(広く個人の所得に関わる)税金に関しては、必要経費の計上が認められていません。
しかしそれ以外に関しては、加算税や延滞税といったペナルティ的にかかるものを除き、広く必要経費に計上できます。
例えば契約書類を作成する際に自分が支払った印紙の代金(印紙税)、先ほど説明した事業税は、必要経費にできます。
年収が1,000万円を超えると納税義務が発生する消費税に関しても、フリーランスの場合は消費税抜きの金額で経理・帳簿作成・確定申告書作成を行うことは少ないので、税抜経理を行っていないことを要件に消費税の必要経費計上はできます。
2023年10月からインボイス制度が開始されると、年収1,000万円以下のフリーランスでも消費税の申告納税を行うことが考えられますので、消費税の必要経費計上はおさえておくと良いです。
自宅の電気代
事務所でなく自宅でシステム開発を行っていたとしても、自宅でかかった電気代を水道光熱費として経費計上できます。これはシステム開発の特性上、パソコンは必須であり、電気代はどうしてもかかるからです。
このような支出は所得税法上「家事関連費」と呼ばれますが、経費計上するには条件があります。業務に必要な経費部分を区分し、その一部だけを経費計上することです。
どれだけ経費計上できるか実は明確ではないのですが、大きく参考になるのがサラリーマンの在宅勤務費用相当額の計算です。
コロナ禍でサラリーマンでも進んだ在宅勤務において、その在宅勤務にかかった電気代等相当額を会社側が手当支給した場合は、給与として課税しないことを国税庁が明らかにしているのですが、その相当額はどうやって計算するの?という疑問に答えて明確化したものです。
在宅勤務にかかった電気代等相当額は、下記のとおりです。
1ヵ月の電気代×業務に使用した部屋の床面積割合×在宅勤務時間割合 ※業務に使用した部屋の床面積割合=業務に使用した部屋の床面積÷自宅床面積 ※在宅勤務時間割合=(在宅勤務日数÷1ヵ月の日数)×1/2 |
上記の算式はサラリーマンの月額手当が想定されているので、1カ月の電気代に割合をかけているのですが、確定申告の経費計上は1月1日~12月31日の単位で行うため、フリーランスが自宅の電気代を経費とする場合は1年間分で上記の計算を行ってください。
従って1ヵ月の日数も365日(うるう年は366日)となり、年間の在宅勤務日数をカウントします。日によって労働時間が大きく変わる場合は、在宅勤務時間割合は(在宅勤務時間÷365日×24時間)に置き換えてください。
1/2は、睡眠時間8時間・勤務時間8時間・勤務外8時間と想定した場合の、起きている時間16時間に対する勤務時間8時間の割合です。(在宅勤務時間÷365日×24時間)に置き換えた場合は1/2をかける必要はありません。
自宅の通信費
インターネットが普及したこの時代では、通常はシステム開発業務に通信費もかかってきます。自宅でかかる通信費も電気代と同様に割合をかけて、その一部を経費計上できます。ただし通信費の場合は、床面積割合をかける必要はなく勤務時間の割合のみかけます。
パソコン代は10万円以上になると複数年で経費化する(減価償却)
システム開発に欠かせないパソコンに関しても、電気代や通信費と同様にプライベートと兼用であれば、業務に必要な部分のみ必要経費とできますが、パソコン代の金額によっては注意点があります。
10万円未満の比較的低価格なパソコンであれば、通信費と同様の在宅勤務時間割合をかけて経費にできますが、10万円以上であれば原則は4年間で分割して経費化しないといけません。この分割して経費とする手続きは減価償却と呼ばれます。
例えば12万円の業務用専用パソコンを2021年1月に購入した場合は、2021年~2024年に減価償却費3万円ずつ計上します(最後の年だけ1円少なく計上)。プライベートと兼用で在宅勤務時間割合が40%となるのであれば、2021年~2024年に計上する減価償却費は1.2万円です。
なお分割年数(耐用年数)は、資産の種類ごとに定められています。例えばサーバー用電子計算機・プリンター・ソフトウェアは、4年ではなく5年です。
20万円未満のPC等減価償却資産は3年間で分割して経費にできる
家庭用パソコンであれば大半が価格20万円未満ですが、この要件を満たす場合は「一括償却資産」として3年間で分割することができます。
12万円の業務用専用パソコンであれば、1年あたり4万円減価償却費を計上することができ、4年で分割するより多く経費計上することができます。
青色申告を行うと30万円未満の減価償却資産を1年で経費化できる
これは青色申告の方法で事業所得の確定申告を行うことが条件ですが、30万円未満の減価償却資産を購入した年に全額(プライベートと兼用であれば勤務時間割合だけ)経費計上することも可能です。
青色申告に関してはこの特例以外の大きな節税特典もありますので、経費についての説明が終わった後に改めて取り上げます。
会計ソフト代
ここからは減価償却資産以外のもう少しわかりやすい経費の話になりますが、システム開発業務以外に必要なソフト以外にも、取引の帳簿づけに利用する会計ソフトの料金についても消耗品費として経費計上可能です。
確定申告書の様式は年によって変わるので、会計ソフト代は一度払ったら終わりではなく1ヵ月または1年ごとに払うのが一般的です。このため、減価償却の手続きは考えずに経費計上できます。
会計ソフトを使って帳簿作成・確定申告書作成を行うことで、後述の青色申告をやりやすくするメリットもあります。ソフトのスキルがあるフリーランスエンジニアは、ぜひとも使っておきたいです。
図書費(業務にかかわる書籍)
システム開発に利用するプログラミング・仕様書作成・プロジェクトマネジメントなどに関わる書籍を購入した場合も、図書費または新聞図書費として経費計上できます。
レシートや領収書、会計ソフトに入力する仕訳摘要欄のいずれかには、書籍名がわかるように記載しておきましょう(書店側が記載していない場合)。
業務にかかわる研修費
有料の研修・セミナーによって業務にかかわる知識を得た際にも、料金を研修費として必要経費に算入できます。領収書を発行してもらうとともに、領収書ではセミナー内容が不明な場合はセミナーのタイトルだけでも記載しておくことが重要です。
会議費・接待飲食費
取引先との打ち合わせで支出した会議室代や飲食代、打ち合わせでなくとも夕食などの接待で支出した飲食代は、会議費や接待交際費として経費計上できます。
領収書には取引先名・参加者名、会議費の場合は打ち合わせ内容をメモしておくと良いです。
国に認められた節税対策
これまで説明した必要経費の範囲だけでなく、会計ソフト代を経費に入れつつ節税できる青色申告や、老後資金のために掛けることが可能な小規模企業共済の知識をおさえておくと良いです。
青色申告で最大65万円の所得引下げが可能
30万円未満の減価償却資産や会計ソフト代の説明で青色申告について触れましたが、これは詳細に取引を記録して帳簿を作成し、さらに青色申告決算書を提出できることが要件とされます。
青色申告の注意点としては、まず始める前に青色申告承認申請書の提出が義務とされる点です。例えば2022年から始めたい場合は、2021年分の確定申告期限と同一日となる2022年3月15日までに申請書の提出が必要です。
簿記方式は「複式簿記」、備付帳簿名は現金出納帳・売掛帳・買掛帳・経費帳・固定資産台帳・預金出納帳・仕訳帳・総勘定元帳に○をしておくと良いですが、必ずしも届出通りの記帳を行う義務はありません(例えば簡易簿記への切り替えも可)。
ただ、複式簿記があまりわかっていないのに帳簿作成できるか不安な人もいるでしょう。その原理があまりわかっていなくても、複式簿記の帳簿作成が可能なクラウド会計ソフトも登場しています。
青色申告の特典には最大で65万円を(所得税・住民税・国保料算定上の)事業所得から控除できるものがありますが、65万円控除するには複式簿記による帳簿作成や貸借対照表の作成が必須です。
複式簿記の知識があるに越したことはありませんが、フリーランスエンジニアであればその知識が不十分でも諦めずに65万円控除できるだけのソフトを探し、使いこなすことに注力したほうがいいです。
また65万円控除の要件として、
・e-tax(電子申告)により青色申告・確定申告を行う
・3月15日までの期限内に確定申告を行う
ことも求められます。e-tax(電子申告)はマイナンバーカードの読み取りができれば早いですが、税務署で本人確認してもらったうえで利用者識別番号を発行してもらえれば、マイナンバーカードなしにe-taxは可能です。
確定申告期限・青色申告承認申請書提出期限に関しては、2020年・2021年のように4月15日頃まで延長される可能性が2022年以降もありますので、国税庁や税務署から発表される情報にも気をつけてください。
小規模企業共済の掛金で節税
フリーランスが活用できる節税手段としては他に、小規模企業共済に加入し廃業・退職後の資金のために掛金を拠出するという方法もあります。加入には業種ごとに決められた従業員数要件もありますが、従業員数5人以下のフリーランスであれば業種によらず加入できます。
小規模企業共済の大きなメリットは、全額所得控除である点です。同じ廃業・退職後の資金作りであっても、民間生命保険会社の個人年金保険は所得控除額に上限があり、支払った額全額が所得引下げになるわけではありません。
なお小規模企業共済であっても、掛金の額自体には月額7万円(年額84万円)という上限はあります。また「所得控除」は「必要経費」と異なり、事業所得者以外でも所得引下げに役立ちますが、一方で所得税・住民税以外の事業税・国保の軽減には役立ちません。
このため年間84万円の節税効果は、最高で84万円×(45%+10%)=46.2万円です。
さて今回は、フリーランスのエンジニアに役立つ、節税対策とその経費を纏めてみました。
所得を上げつつも、うまく経費を使う事で、課税所得を減らすことが出来れば、手残りを大きくする事も可能です。
確定申告のギリギリ直前に準備をするのではなく、4半期毎に現在の売上と経費を整理して、先を見据えながら、上手に所得をコントロールしていきましょう。
■今回執筆頂いた方
石谷 彰彦
システム開発会社・税理士事務所に勤務し、行政非常勤職員や個人投資家としての経験も持つ。
FPとして、確定申告・個人所得税・社会保障関係を中心にライティングやソフト開発を行う。
近年は個人の金融証券税制に重点的に取り組み、上場株式等課税方式有利選択ツールを公開。
プロフィール詳細:https://aif-planning.blogspot.com/